大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所尼崎支部 昭和30年(ヨ)19号 判決

申請人 星野照雄 外一名

被申請人 日本通運株式会社

主文

申請人等の申請を却下する。

申請手続費用は申請人等の負担とする。

事実

申請人等代理人は

一、被申請人が申請人星野に対し昭和二十九年十二月三十日、申請人中村に対し昭和二十九年十二月二十九日に為したる解雇の意思表示の効力は何れもこれを停止する。

二、被申請人は申請人等を従前通り被申請人の従業員として取扱わねばならない。

との判決を求め、その理由として

一、申請人星野は昭和二十七年十二月十六日から申請人中村は昭和二十七年十月一日から何れも被申請人会社尼崎港支店に臨時名義で雇われトラツク運転手として今日に至つたものであるが、昭和二十九年十二月初め頃から右尼崎港支店に臨時名義で雇われている労働者十三名が労働組合を結成しようとし申請人両名はその中心的活動を為し遂に日通尼崎港支店臨時従業員組合を結成し申請人中村は組合長に、申請人星野は書記長に、副組合長に吉田正己、会計に福井猶夫を決定して昭和二十九年十二月二十四日付書面で被申請人宛にした其旨の通知を翌二十五日村山庶務係長に手交した。

二、処がその翌日二十六日に右通知書は、こういう組合は認められぬとの理由を口頭で述べられて返戻された、又前記会計福井猶夫は木田車輌課長に呼ばれて何故組合へ加入したのか等とむづかしく云われて困るから会計を辞めさして欲しいと申し出て来たりしていたが引きつゞき二十九日には申請人中村に対し三十日には星野に対し「仕事がひまになるので車を停めるから解雇する」と通告された。

三、つゞいて三十一日申請人等は被申請人の動きを不当なものであると断定し書面を以て即時解雇通知を取消すこと、就業規則に基いて長期雇傭契約を結ぶことを要求したがこの日ひる休みの時木田車輌課長は臨時の人達に対し「おとなしくしていたら首なんか切らないよ」等と談話したとのことである。

かくて被申請人は申請人等の要求を考慮しようとしないで明けて昭和三十年一月十九日には解雇予告手当の供託をして断乎解雇の意思を明かにした。

四、以上要するに本件解雇は申請人等が労働組合を結成し一人は組合長に、一人は書記長に就任して其通告を手交した四日乃至五日目になされたもので被申請人が右労組の結成を挫折崩壊せしめようとの意図の下になされたものであることはまことに明白で典型的な不当労働行為である。

尤も表面の解雇理由はひまになるので車を停めようと思うからというのであるけれどもそれは全く詭弁的な所謂口実である何故なら被申請人会社には申請人等と同じ立場で働いている者は十数人もあるのに何故に申請人等が解雇者として選ばなければならなかつたか少しも述べられていないことからも明瞭であり前記木田車輌課長の言動に照らし明白である。

五、申請人等は解雇無効の本案訴訟を準備中であるが到底判決を得るまでまつことが出来ないから取不敢本申請に及ぶと述べた。

(疏明省略)

被申請人代理人は申請人の申請は之を却下するとの裁判を求め、答弁として

申請人星野は昭和二十七年十二月十六日から申請人中村は同年十月一日から何れも被申請会社尼崎港支店に臨時傭員として雇われトラツク助手を経て運転手をしていたこと及び昭和二十九年十二月二十九日申請人中村に対し同月三十日申請人星野に対し夫々解雇通告をしたことは之を認める。申請人等の解雇は不労働行為であるとの申請人の主張を争うと述べ

一、被申請会社は全国に三四三の支店七六、九六七名の従業員をようする資本金七十二億円の会社で全従業員は全日通労働組合の構成員であり尼崎港支店の二八九名は全日通労組尼崎港分会を組織するが申請人等は臨時傭員で同組合員ではない。

被申請会社は昭和二十九年五月以降自動車成績は低下の一途を辿り老令車の代替、新車の補充等により辛うじて運用してきたが尼崎港支店のみにても年末に際して予備車二輌をも完全使用することなく昭和三十年早々予期せる通り五輌の凍結車を生ずるの止むなきに至つた。

右の如く被申請会社は自動車成績不良、凍結、従て臨時運転手の冗員を来す結果本採用試験不合格者中成績不良の者を整理することゝなり同年十二月八日禀議決裁を経て十二月二十九日前後して解雇の申渡をした。

申請人等は右解雇を諒承し十二月三十一日には十二月二十一日から三十日迄の給料清算の要求をなし之を受領している。

前述の如く尼崎港支店臨時傭員中本採用の試験受験資格者は二十三名あつたが昭和二十九年八月九、十日の考査の結果十一名の不合格者中に申請人等が含まれ且特に成績不良なる者四名中の二名であり同年十一月二十七日所属班長から右四名に対し「一月になれば仕事も暇になるし車も凍結するから今の内に身の振り方を考えるよう」との注意を施した。

申請人中村は接触交通事故二件、又経歴詐称もあり星野は追突事故一件、荷物落損事故一件、四十九日の無届欠勤を数えている。

申請人は他の臨時傭員運転手に比し成績不良で且冗員のため之を解雇するに至つた次第で申請人等は車輌凍結に伴う冗員運転手の整理必至なるを察知し申請人等が解雇予定者となつていることを悟り、急拠臨時従業員組合を結成し宛も組合結成を理由として解雇したものゝ如く外貌を整えんとしたようであるが組合結成とは何らの関係なく、全日通労組の如き大組合を擁する被申請会社が申請人らの組合結成を妨害する筈もなく、結成によつて痛痒を感ずるものではない。

要するに申請人らの解雇は被申請会社の車輌凍結方針に伴う冗員運転手として成績不良の者を対象としたもので組合活動を理由とするものではないから不当労働行為であるとの申請人らの主張は失当であると述べた。

(疎明省略)

理由

申請人星野が昭和二十七年十二月十六日から申請人中村は同年十月一日から何れも被申請会社尼崎港支店に臨時傭員として傭われトラツク運転手をしていたこと及び被申請会社が昭和二十九年十二月二十九日申請人中村に対し同月三十日申請人星野に対し夫々解雇通告をしたことは当事者間に争いがない。

成立に争いのない疏乙第一号証同第二号証によると申請人等は解雇通告にさきだつ昭和二十九年十二月二十四日付書面を以て組合長を申請人中村、書記長を同星野申請外吉田正己を副組合長、同福井猶夫を会計とする日通尼崎港支店臨時従業員組合の結成並前記組合役員選任の通告を被申請会社尼崎港支店長宛にしていることが認められ被申請会社の解雇通告が右の組合結成と関聯があるかのようにみられる。

成立に争いのない疏甲第三号証によると申請人等は右解雇通告に抗議し之が撤回を要求したことが認められるが右の要求書は組合名ではなく申請人らの個人名義で且つ解雇通告が会社の都合による一方的な不当のものであると断定し必ずしも組合結成を理由とする解雇であるから不当であると言つているのでないのであるが一応不当労働行為の主張として被申請人の抗弁について考えてみよう。

成立に争いのない疏乙第一号証一乃至三、同第三号証、同第十三号証同第十四号証、証人木田義行同塚越勤の各証言により成立を認める乙第二号証の一、二同第十号証、同第十三号証に前記証人の証言を併せ考えると、被申請会社は昭和二十九年五月以降自動車成績低下の一途を辿り尼崎港支店に於ても年末に際して予備車二輌を完全使用する見込なく昭和三十年早々五乃至六輌の車輌凍結を生ずるの止むなき状態に立至つたので昭和二十九年十二月八日冗員臨時運転手等の整理を支店長宛禀議決裁を得たこと、然して申請人等三名が整理対象となつていたことが認められる。

又申請人等は昭和二十九年八月の本採用試験に不合格となり毎年施行の本採用試験に都合二回不合格となつたが不合格者は退職を求められることになつているので同年十一月二十七日頃班長を通じ試験不合格を通告された所申請人星野はせめて年末まで置いてくれと木田車輌課長まで希望を述べたことが認められ申請人等は本採用試験不合格の結果いづれ会社の車輌凍結に伴う冗員整理の対象になるかも知れないことを十分予知していたことが認められる。

以上認定事実によると申請人等の解雇は申請人等の臨時従業員組合結成の計画以前に決定してをり申請人等も十分之を予知したゞ解雇通告が年末まで延期されていたにすぎないから申請人らの解雇を直に組合活動を理由とするものであるとはいえない。

次に申請人主張のように被申請会社が故意に組合活動を弾圧する行為があつたかどうかについては申請人等代理人は立証をしないので証人木田義行同塚越勤の各証言により成立を認める疏乙第七号証同第八号証同第九号証に前記証言を併せ考え申請人らの組合活動や臨時従業員組合の成立を抑圧しようとの意図がなかつたと認めるの外はない。

前記の如く申請人等は被申請会社の業務不振に基く車輌凍結のため冗員臨時運転手として整理の対象となつたのであるが右は前記証人等の証言及び成立に争いのない疏乙第一号証の一、二、三により申請人等がその適用をうけることが認められる被申請会社尼崎港支店臨時傭員就業規則第十六条第十二号による解雇であつて右条項業務の都合は前陳するように会社業務の止むを得ない不振―車輌当作業量の不足―による車輌凍結による冗員整理であるから解雇に正当事由ありと認めるのを相当とする。

申請人らは他に臨時従業員が多数あるに拘らず申請人等のみ解雇されるのは不当であると主張するが申請人らは不運にも本採用試験に再度不合格となつたのであるからそのことだけで成績最も不良と認定されても止むを得ないところである。

以上要するに申請人らの解雇が不当労働行為であるとする申請人主張は之を認めることができない。

被申請会社の解雇には正当の事由があり且つ成立に争いのない疏甲第四号証により解雇予約手当の提供次で供託が明かであるから申請人らの解雇が有効になされたものと認める。

よつて申請人の本件仮処分申請は失当であるから之を却下すべく申請手続費用の負担について民事訴訟法第八十九条により主文通り判決する。

(裁判官 西田篤行)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例